読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

話半分で聞いてください

口ベタによる一生懸命

手のひらに人という字を3回書いて飲むと、「きっと、うまくいく」

誰が言い出したか、緊張した時は「手のひらに人という字を3回書いて飲む」というおまじないがある。本当に効果があるのか疑わしいが、効く人には効くのか、何人かの友人が実際にやっているのを見たことが有る。そんなふうに誰しも、自分だけのまじないみたいなものを持っていると思う。


そういえばインド映画「きっと、うまくいく」は、主人公ランチョ―のおまじない「きっと、うまくいく」が日本版のタイトルになっている。この作品は、インドの名門工科大学における“3バカ”学生の物語で、難解な試験や就職活動、何かにつけては文句を付けてくる鬼校長や、それぞれの家庭環境など、様々な危機難題を乗り越えながら、3人が成長する様子が描かれている。物語の中でランチョ―は、危機的状況に直面すると、必ず目を閉じ胸に手を当て「Aal Izz Well(All is well)」と自分に言い聞かせる。時には歌って踊りながら「アール・イーズ・ウェール!」と叫ぶこともある。そうすると本当にどんな時も、“結局”うまくいく、のである。


私のまじないはというと、ショパンを聴くことだ。ここぞという時はもちろん、辛い時や哀しい時、無性に寂しくなった時や仕事に疲れた時に、ピアノ独奏曲を聴く。ピアノは中学2、3年まで習っていて、その時からまじないとしてショパンを聴いている。始めは少し感傷的な気分になるのだが、聴き終わる頃には晴れやかな気持ちになるためだ。そして不安や哀しみといった心の揺らぎがおさまり、どんな状況にも穏やかに対応できる。勤め先の社長が「辛い時には思い切り泣いて喚いて、落ち込んでから寝る。そうすると、翌朝には元気になっている」とマインドを持ち直すと教えてくれたのだが、それに似たことを一曲聴く中でやっているのかもしれない。


ショパンの生涯は、波乱に満ちた不幸な人生であったという。 幾度もの実らない恋を経験し、当時不治の病と言われた肺結核を患ったうえ、39歳で生涯を終えている。しかも、祖国ポーランドへの強い愛国心があるにもかかわらず、政治情勢の問題で21歳の時にパリへ越して以来、戻ることができなかったそうだ。

彼にはこのような哀しい背景があるためか、メロディには悲壮感が漂っている。だが、要所要所で勢いや高音を巧みに利用しているので、哀しみを乗り越えられるような救いがある印象を受ける。海に深く潜って空を見上げた時に、水面の先から光が降り注ぐような、そんな暗がりの中の明るさを感じる。

また、楽譜には書かれていないが、曲のテンポを速めたり遅くしたりする手法「テンポ・ルバート」を自由に用いて弾くのが、ショパンの楽曲の特徴である。ピアニストのリストは、これを「葉が風にざわめき波打っているが、幹は動かない。これがショパンのルバートだ」と表現している。彼の曲のルバートは、まるで事の波に身を任せ、そのまま流されてしまうような移ろいあるリズムを作り出していて、哀しみに打ちひしがれる気持ちさえも、ワルツを踊るようにして楽しむ雰囲気を漂わせる(ちなみに、テンポ・ルバートは訳すと「盗まれた時間」という意味である)。


だから私はショパンを聴く。まあ、アニマル浜口親子の「気合だー!」とか、アントニオ猪木の闘魂注入みたいなものなのだけど。