話半分で聞いてください

口ベタによる一生懸命

眠れない夜のために

「最近眠れないんです」と後輩から相談を受けた。私も不眠症の経験があるので、眠れないと心もとなくなる気持ちがよく分かる。「不安だよね」「そうなんです、一人ぼっちな感じがして」。――以来、眠れない夜について考えている。


眠れない夜には、なぜ寂しくて孤独な気持ちになるのだろう。むしろ眠れなくて良かったと思うことだって色々あるはずだ。楽しい時間が終わってしまう名残惜しさや、眠ったら二度と起きられないかもしれない死への恐怖を感じずに済むことができる。しかしどうしてそういったプラスの側面以上に、心細い気持ちになってしまうのか。しかもその思いを、皆が皆同様に感じているのだろうか。


眠れない夜について描いた、もしくはそう題した作品は、枚挙に暇がない。例えばヒルティの「眠られぬ夜のために」、ジョン・ランディスの映画「眠れぬ夜のために」、内田樹の「疲れすぎて眠れない夜のために」。前のブログエントリーでふれたMISIAの「眠れぬ夜は君のせい」もそうだ。眠れぬ夜に窓の外を眺めて居たら、主人公の弟を自称する見知らぬ男が、空を飛んでもの凄い速さで部屋の中へ突入してくるというとんでもない小説「飛ぶ男」(安部公房)なんてのもある。昔からたくさんの人が、眠れない夜について考えてきたことが伺える。


私も眠れない夜については、幼い頃から思うところがあった。眠りにつくのが怖かったのだ。眠ってしまったら金輪際時間が止まってしまい、明日が来なくなるような気がしていた。そんなことを考えてるうち、ほかの家族が眠り始めてしまうのも、凄く嫌だった。家族の中で自分しか起きていない時は、闇の中に一人ぼっちでいるような気がして辛かった。だからいつも夜を、眠れない夜を、恐れていた。それゆえ寝つきの悪い子供だった。

見かねた母が、いつしか私の就寝時にカセットテープで音楽を流してくれるようになった。母が選曲したポップミュージックを20曲ほど収録したものだ。その効果は抜群で、なぜかとてもリラックスでき、眠れるようになった。音楽が絶えず流されることで、寝ている間にも時間が過ぎていることが証明されて、これからもずっと生きていられる気分になれたからだろう。


カセットテープに入っていた曲の中で1番心に残っているのが、SMAPの「朝日を見に行こうよ」だ。今でも眠れない夜にかけることがあるほど、お気に入りになっている。稲垣吾郎さんの優しい「眠れない夜は僕を起こして欲しい」から始まり「きっと忘れないで、その澄んだ心を大切にね」で終わるゆったりとしたバラードなのだが、この曲を母が選んだわけを今考えてみると、娘へのメッセージを兼ねていたのかもしれない。

少しだけジーンと来そうになるのだが、その次に録音されていた曲が、中居さんが「泣きたい気持ちだよ、僕は一人きり」と切なく孤独を叫ぶ失恋ソング「泣きたい気持ち」だったので、ただ好きな曲を寄せ集めただけの可能性も否めない。いや、人生の生き辛さを、そのカセットテープを通して幼い私に伝えたかったのかもしれない(笑)。そう簡単には、綺麗な思い出話にならないものだなあ、と思う。