話半分で聞いてください

口ベタによる一生懸命

2階

思えば2階にしか住んだことがない。一人で住んでいる今も、家族と暮らしていた時も、マンションの2階だった。2階よりも高い場所で暮らしたり、過ごした記憶がない。
 
高層ビルが乱立するこのご時世に、なんだか貧乏くさいエピソードだなと自分では思っていたが、1度だけ、それについて褒められたことがある。ある街へ引っ越してすぐ、近くの銭湯へ行った時のことだった。
 
そこそこに身体を洗って湯船に浸かると、隣にいたおばあさんが話しかけてきた。「どこから来たの」と質問されたので、「東京の東側を点々としている」と言うと、「住んでいるのは、タワーマンション?」と聞かれた。「いや、長屋を改装したような、小さなマンションの2階です。恥ずかしいことに私、2階以上の場所には住んだことがないんですよ」と私が答えると、彼女は嬉しそうな顔をした。そして、「昔は神様よりも高い位置に人は住んじゃいけないなんて言われてね。最近じゃこーんな高いマンションも建ってきてるけど、この辺りはもともと2階建ての長屋ばっかりだったんだよ。お姉さんはこの街と合ってるかもしれないね」と言った。
 
 
別に2階にこだわっているわけではないし、特別好きなわけでもない。不動産屋に紹介される物件に2階が多かっただけの話だと思う。5階か8階の部屋を考えて、どういうわけか結局2階を選んでいたこともあったような気もするが。それで、なんだかんだで、いつも2階に住んでいる。
 
2階に住むメリットといえば、上の階の人より早く部屋にたどり着けるくらいで、難点ばかりである。例えば1階から2階へ上がる時、エレベーターを使うか、それとも階段をのぼって行くか、すごく迷う。迷い過ぎてしまうのが問題である。エレベーターが1階に戻って来るまでの待ち時間を考えれば、階段のほうが早いのかもしれないが、たいてい入り口から遠いところへあったりして、そこまで歩くのは面倒に感じるし、ひょっとするとその間にエレベーターが戻って…なんてことまで考えると、もうどうしようもなくなる。
 
ほかにも、ベランダに出て洗濯物を干している時、家の前の通りを歩く人と目が合ってしまったりする。これはとても気まずい。風呂上がりで、頭にバスタオルを巻き付けている時なんかだともっと気まずい。あと、今日みたいな大雨の日には、地面や他の家の屋根に打ち付ける雨音がうんと聞こえてきて、うるさいのなんのって。
 

そういえば、タワーマンションに住む人の部屋へ行った時、雨の音が聞こえないのに驚いた。自分の家に居る時は、いつも音で雨が降ってきたのに気付くのだが、そこでは、窓の先に広がる霞みがかった空と、向かいのマンションの屋上の地面の濡れ具合、地上で傘をさして歩く人を見つけてやっと雨だと確認できた。なるほど高層階に住むとこんな困難があるのかと思ったが、雨音に静寂を邪魔されるよりはずっとマシだろう。
 

そろそろ引っ越しを考えてもいい時期なのだが、私は次も2階に住むのだろうか。


 
「記憶に残る風景」 #地元発見伝
二十数年前、荒川区町屋にあった祖父母の家も、どこかの2階だった覚えがある。殆ど記憶が無いのだが、近くに都電荒川線の通る踏切があって、「カンカンカンカン」と鳴る警報音が聞こえてきたのだけは、ハッキリと覚えている。

https://www.google.com/maps/preview?q=35.743018%2C139.780212
荒川区, 東京都

地元の魅力を発見しよう!特別企画「地元発見伝
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