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話半分で聞いてください

口ベタによる一生懸命

キュウリのサンドイッチの描写が良かった

物語やエッセイの感想を聞かれると、まず最初に「キュウリのサンドイッチの描写が良かった」なんて調子で答えてしまうほど、テキストで描かれる食事のシーンが好きで、よく覚えている。むしろ、それしか覚えていなかったりする。

 
アガサ・クリスティそして誰もいなくなった」に出てくる朝食のトーストの上には、ポーチドエッグが2つも載せられていただとか、椎名誠さんが「ひるめしのもんだい」に書いていたキャンプ料理の、鰹節とマヨネーズと醤油で和えただけのスパゲッティは旨そうだっただとか、そういうのである。
 
 

気に入ってつい覚えてしまうのは、単純に美味しそうな料理に惹かれているためというのもあるが、描かれているシチュエーションでそんなものを食べられる登場人物を羨ましく思うからというのもある。

例えば、白石一文さんの「私という運命について」では、主人公でキャリアOLの亜紀が東京から九州へ転勤になり、現地で大分出身で同年代の男と懇ろな関係となるのだが、その男の為に「とり天」を自宅で作ってやるシーンがある。私はこの話がたまらなく好きだ。

亜紀は生まれも育ちも東京で、九州の料理には馴染みがない。にもかかわらず、好きな男が「大好物」という郷土料理の鳥天を喜んで作ってあげる。その健気な姿にキュンと来る。しかも度々拵えてあげているので、調理の手さばきはどんどん上手くなる。そうやって、男の故郷に段々馴染んでいく亜紀にしおらしさを感じる。亜紀がもともとキャリアOLで、強くたくましい女性であることが、より一層その一面を愛らしく思わせる。

そして、そんな亜紀が作ってくれる(もちろん旨そうな)鳥天を彼氏として食べられるなんて羨ましいし、どんなに幸せなことだろうかと想像すると、読んでいる私まで幸福な気持ちになれるのである。

実のところ、私は鳥天を食べたことがない(大分の男の人と付き合ったこともないし、男の人のために郷土料理を作ってあげた経験もない)。だから尚更このシーンに「いいなあ」と感じるのかもしれない。

 

ところで、私が最も好きな食事のシチュエーションで、男女の人間模様が描かれている小説には、まだ出会えていない。なので、知っている人がいたら教えて欲しい。

シチュエーションを具体的にいうと、店は入り口の戸をガラガラと開けると、筆で書かれたメニューが壁一面にペタペタと貼ってあるようなところで、「とりあえずビール」と頼んだら、ラガーか赤星が出てくるようなセンスを持ち合わせてると、すごく良い。できればつまみは、冷やしトマトや焼鳥、もつ煮といった飲兵衛向けのメニューが並んでいて、それを2人が息ぴったりに頼んでいれば、もう完璧だ。

なんて思ったが、逆に、ピンポンと鳴る呼び鈴で店員を呼ぶような色気のない店で、発泡酒とカシスオレンジ、砂肝の唐揚げとポテトフライなんかを注文する話もいいな。飲みの途中でトイレに行ったら、誰かが個室で籠りっきり、その部屋の前には面倒見のいい女子が心配そうな顔をして立っている、みたいなやつ(笑)。

 

そういえば明日は金曜日か。ビールが飲みたいなあ。