話半分で聞いてください

口ベタによる一生懸命

いい人は、いい本を知っている

「この人はいい人だ」と思ったら、必ず好きな本について聞くことにしている。

 
 
人は本を読む時、必ず孤独になる。なぜなら、孤独になると他の誰の声でもない、そこにあるテキストの音に耳をすますことができる。耳をすますには、静かでなければならない。誰かと喋りながら、他の何かをしながら本を読むことはできないし、他人に抱かれる印象を気にしながら、物語に想いを馳せることなどできない。それゆえ本を読むときは、進んで孤独になって、雑音を遮断しなければならない。
 
そういう静寂の中で過ごせる人を、私はいい人だと思うし、信用している。自分だけの感覚を尊重できる人が、私は好きだ。だから、いい人だと思ったら、彼らが1番孤独になれるであろう、好きな本について聞く。
 
 
いい人に「いい」と言われた本は、必ず文庫で購入して、読むようにしている。彼らがなぞった道をゆっくりと辿るようにして、そっとページをめくることで、彼らの内面、本質に触れられるような気がするからである。そして、買った本はいつまでも取っておくようにしている。
 
そういうことを続けていると、いい人のことを、もっと大事にできる気になれる。彼らが本当に落ち込んだ時、いつまでもに傍にいてやれるような人間になれるような気がする。だからいい人に勧められた本は、その人と同じくらい、大切にするようにしている。
 
 
ただ相手のことを知りたいだとか、大切にしたいという欲求以外にも、好きな本について聞く理由がある。それは、共に過ごしたそのひと時について、無くすことのできないメモをとりたいからである。
 
いい人と一緒にいる時間は、大概いつも楽しくて、言葉の隅々まで覚えていたいと願っていても、ついうっかり忘れてしまう。幸せな時間は、一瞬にして過ぎてしまう。だからと言って、会話の内容を必死にメモし続けるのも、何か違う気がする。
 
でも絶対に忘れたくない。もしかしたら、別れの時が来るかもしれない。だから、いい人だと思ったら、必ず好きな本について聞く。本を勧めてもらえたら、すぐにネットで購入しておき、思い出を深く刻む準備をする。本が届いたら、あの時会話した時の声を、くまなく壁に彫るようにして、じっくりと読み進める。そうやって、共に過ごした時間を本の中に書き込んで、ずっと後に残るメモを取る。
 
例えば、今でも石田衣良の「波の上の魔術師」を開けば、あの人と初めて話した日のことを思い出すし、アーヴィングの「ガープの世界」を手に取れば、あの人に貰った言葉に強く勇気づけられる。その人とその本の話をしたのが、何年も前、どんなに昔のことであっても、ページを開けば鮮やかに蘇る。
 
 
今日は金曜日。久々に人と会う予定がある。私はいつものように、本について話すだろう。