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口ベタによる一生懸命

焼肉屋でタン塩ばかり食べてしまう/下北沢牛タン居酒屋「たんたん」

「タン塩」は、その言葉に触れてしまったら最後。コリコリ、プリプリとしたなんとも言えない食感と、噛めば噛むほどに出てくる肉の旨味を思い出し、その瞬間、すぐ焼肉屋へ駆け込みたくなってしまう。

お昼時ならば、牛タン・とろろ・麦めしの抜群のセットを提供してくれる「ねぎし」で定食をかきこめばいいが、どうしても業務を抜けられない時なんかはコンビニでチルドの「スモークタン」を買って食べる。140kcalくらいとヘルシーだし、牛タンの食感、レモンと塩と肉の旨味をなんとなく味わえたような気がして多少満足できる。

思い起こせば、タン塩を初めて食べたのは20年程前だった。フジテレビ系の情報番組「発掘あるある大辞典」か何かで、「牛タンがこれから流行る」と知り、「とりあえず試してみるか」と家族で近所にある1番手軽なチェーンの焼肉屋に行ってみたのが最初の出会いだったはずだ。かなり薄い肉のスライスではあったが、確かにそれは牛タンであった。

これまで食べていた焼肉のそれとは明らかに食感も違うし、ほかのどの肉よりも先に焼かなければならないルールだとか、タレ味の焼肉のように特別ご飯が進むと言うわけではないが、レモンと塩で食べる独特の作法に、大人な嗜みを感じて気に入った。

ただ1人、「焼肉はタレ味」「肉は脂の乗ったサシの入ったものしか認めない」と言って聞かない頑固者の父だけは、タン塩を初めて食べた日に「まずい」と言って、それ以来絶対に手をつけなかったので、タン塩派が焼肉を嗜んでいる数十分の間はずっとお預け状態だった。

大人になってからも、焼肉屋ではこうして「タン塩食べない派」の待ちの時間ができてしまい、忍びない気持ちになることが時折ある。そもそも焼肉屋はみんなで美味しいお肉を食べる場所であって、「タンを心行くまで食べたい派」が欲望を全面的に露わにしていい場所ではない(たぶん)。では、そんな少数派の人々はどんな店へ行けばいいかといえば、これから紹介するような牛タン料理の専門店である。

牛タン好きの友人とその日向かった下北沢の「牛タン居酒屋 たんたん」は牛タンの部位に合った調理を施し、様々な牛タン料理を提供している。歯ごたえのある部位は焼き料理に、スジ肉ならば煮込んで旨味を出してシチューやカレーに、といった具合で。珍しいメニューもあり、牛タン入りのおでんやコロッケ、メンチカツなどもある。

注文したのは「とろとろゆでたん」、塩・味噌・ネギの三種の味を楽しめる「3種MIX焼き」。ゆでたんは、噛み応えを残しながらも口の中で解けていく感覚に驚いた。玉ねぎと一緒に煮込んだスープの自然な甘さと凝縮された旨味がたまらない。

3種MIX焼きは違う味付けを少しずつ楽しめ、色々食べたい欲張りな人には嬉しいメニュー。中でもネギ味は生姜が入ったさっぱりとした味付けで、不思議なくらい沢山食べられる気持ちになる。気に入ってしまい、単品でさらに追加してしまった。

たんたんを始める前は、野菜の専門料理店で働いていたというオーナー夫妻。その知識を生かし、メニューには「季節野菜のパフェサラダ」「ごぼうのから揚げ」など沢山の有機野菜の料理が並ぶ。注文した「焼きなす」は、なすをまるまる一本とろとろになるまで焼いて、丁寧に皮をむいた状態で提供された。たっぷりの削り節と醤油をかけていただく。

合わせる飲み物は日本酒がオススメだ。十種類ほどあるお酒の中からどれを選べばいいか悩んでいると、ご主人が好みを聞いてそれに合ったものを提案してくれた。基本的に辛めのすっきりとした味わいのものを多く揃えているという。日本酒のほかに、ビールやワイン、焼酎もある。

さて、こんなに私を長きに渡って魅了する牛タン。牛タンを今のように鉄板で焼いて食べ始めたのはいつ頃か調べてみたところ、諸説あるが、戦後のヤミ市にルーツがあることがあるとわかった。戦後の食糧難のなかで、昔は食べずに捨てられていた牛や豚の内臓がヤミ市で流通し、それを焼き始めてホルモン焼きやもつ焼きが始まったとされているが、日本で牛タンを鉄板で焼いて食べるのも、そこに起源があると言われている。

では、誰がこの「牛タンを焼く」という行為を発明したか。という問いを解き明かしたいのだが、「焼き鳥を始めたのは誰だ?」という話にも似ていて、答えは「旧石器時代に鳥を焼いて食べていたことが最初ではないか?」のような太古の歴史の調査をもとにした回答になり、普段の生活とは遠い話であるがゆえ、ちょっぴりつまらなくなってしまう。ちなみに、牛タンを食すルーツも旧石器時代にあるそうだ。

上記の反省を踏まえ、あるメニューに焦点を絞ってルーツを調べてみると、身近で分かりやすい話になる。例えばタン塩なら、1976年六本木に「叙々苑」を創業した新井泰道氏が開発したと言われている。

「目玉商品がほしくて肉屋さんに相談したら、タンを使いなよ、と勧めてくれたんです。当時は、タンシチューぐらいにしか使ってなかったから、品物が余ってた。塩をかけて焼いて、賄いで食べてる、というんですよ。旨くて安いよ、と。レモンダレは、タン塩にレモンを搾って食べたい、というホステスさんの注文がヒントになった」。

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ほかにも、仙台の名物料理の「牛タン焼き」は、元々焼き鳥店を営んでいた「太助」の初代・佐野啓四郎氏が、牛タン焼きの専門店を開業したのがその始まりという。

ではタンシチューは?ゆでたんは?とどんどん気になって来るところだが、取り上げ始めたらキリがないのでこの辺にしておく。このように牛タンとっいってもいろんな切り口で語ったり調べたりできるのも、私は凄く魅力に感じている。

次は四ツ谷にある「たん焼・忍」、秋葉原たん清」に行ってみたい。仙台の牛タン焼発祥の店「太助」も水道橋に支店があるそうで、気になっている。今回食べなかったメニューを試しにまた「たんたん」へ行ってもいいな。明日、いや、今すぐにでも行ってしまいそうだ。