話半分で聞いてください

口ベタによる一生懸命

センセイと星空

八ヶ岳の夜は美しい。静かで穏やかだ。雑音一つ聞こえない。周囲は高い山脈に囲われており、その内側で過ごす人々は、優しくて暖かい。

政治学の研究室の皆で、教授が「色々と」手伝っているという自治体にあるコテージへ合宿に来ている。合宿と言っても、自治体の問題の表面を舐めるためのツアーであって、ほとんど観光をしているようなもの。参加自由なので、研究室のメンバーも物好きか、遊びたいかくらいの理由を持つ数人しか来ていない。その頃の私はちょうど地方自治を研究していたので、もちろん参加した。ツアーで見学したのは再開発中の工事現場や、新しいショッピングモールなど。更新中のこの街に「色々と」感じ取るものがあった。

夕食で食べた、八ヶ岳の新鮮な野菜を使ったフレンチのコース料理は見事だった。特に前菜で食べた大きなセロリ。東京で見るものの3倍のサイズにもかかわらず筋がなくて、青みがとても爽やかだった。教授は「こういうものを守るために諸々手伝っているんだ」と言った。

「ちょっと」
「はい」

「夜に向けて買い出しへ行こう。君は運転をしなさい」「まっすぐ20分くらい行けばセブンイレブンがある。その前に一度右折できるところがあるから、そこを曲がりなさい。見せたいものがあるから」

教授のことを私はセンセイ、と呼んでいた。「センセイ、曲がりましたが、この後は?」

「まっすぐまっすぐ。ほーら! 見えてきた。ここで止めて。」「悪魔のような深い深い谷底。ふふふ、怖いでしょう?」

「永遠に下へと続くような暗黒……ですね。周りに誰もいないし、一人では怖くて孤独で耐えられなそうです」

「でもね、そう悪いもんじゃないんですよ。この崖のギリギリに立つと、自分のやっていることがなんてちっぽけなんだと思うんです。足掻いてもすぐにでも飲み込まれてしまいそうな、無力を感じるんです。けどね同時に、なぜか大切な人のことを思い出して勇気が湧いてくる。私がやるしかないってな感じでね」「ほら、上の星空も綺麗でしょう。下に広がる闇と同じくらい、綺麗なものがたくさんあるんですよ」

「いいでしょう? ここ。」

今週のお題「星に願いを」